2012年になると政治的な動きもあって、それまでのブームに陰りが生じ韓流人気はやや低迷期に入った。それでも、ドラマは引き続き放送されており、スターの来日イベントも変わらず行われ、熱心なファンを掴んでいた。この時期のドラマの特徴として挙げられるのは、ファンタジー作品の増加。韓国では2010年に作られてヒョンビンに第2の全盛期をもたらした『シークレット・ガーデン』をはじめ、キム・スヒョンを国民的スターに押し上げた『太陽を抱く月』、『星から来たあなた』といったファンタジックなラブロマンスが、2012年から14年にかけて日本で放送され人気を集めた。CG等の技術が進歩し制作費も潤沢になったことで、以前は難しかったこうしたジャンルのドラマは今に至るまで毎年数多く作られている。
その一方でファンタジー色は皆無、ロマンスも一切ない異色のドラマ『ミセン-未生-』が韓国で2014年に大ヒット。ZE:A出身のイム・シワンが囲碁棋士の道を断念し、コネで入った商社で奮闘する主人公を演じたドラマは、リアルな描写でサラリーマンの悲哀を描いて高い支持を受け、日本でも評判を呼んで2016年にリメイクされた。2012年にすでに『応答せよ1997』をヒットさせていたケーブル局tvNは、この成功を追い風に大躍進を遂げる。この後も『シグナル』『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』などヒット作を連発。ほかにも新聞社系のケーブル局JTBCが『密会』『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』『SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜』といった社会性の強い作品を送り出して存在感を高めた。
そうした変化の一端として、2015年あたりからコスメやメイク、ファッション、食べ物などの韓国カルチャーに親しみを抱く若い世代が出現。若者の憧れの対象として、K-POPアイドルに熱い視線が注がれるようになった。第2次ブームまでは本業である歌手としての活動がメインだったアイドルたちは、このころから一部のメンバーの俳優活動が当たり前に。彼らは“演技ドル”と呼ばれて、当初はアイドルが片手間に演技をしているという偏見を持たれていた。それが、前出のイム・シワンのように、俳優として実力を示すことで冷ややかな見方も次第に変化。さらに、アイドルがドラマに次々に進出したことで、それまで音楽やファッションにしか興味のなかった若者たちを引き込んで、ファン層の拡大に一役買った。
例えば『麗<レイ>花萌ゆる8人の皇子たち〜』はEXOのベクヒョン、『花郎<ファラン>』にはZE:A出身のパク・ヒョンシク、SHINeeのミンホ、BTSのVが出演しているから見てみた、という人が少なからずいる。その結果、主演のイ・ジュンギやパク・ソジュンの魅力に目覚めて、改めて彼らのドラマを見るようになるケースもあったと聞く。また、この時期モデルからの転身組、成長した子役出身俳優の活躍も顕著に。彼ら輝くスターたちと、ケーブル局の急成長により激増した数々の多彩なドラマが第3次ブームを支えた。
この時期目立った出来事をダイジェストで紹介
●ドラマのジャンルの多様化
ケーブル局ドラマの増加とともにサスペンスや捜査劇、法廷物が多く作られるようになった。いくつかの要素をミックスさせた作品もこのころから。
- 2013年『君の声が聞こえる』
- 2015年『キルミー・ヒールミー』
- 2016年『シグナル』
- 2017年『ボイス—112の奇跡—』
- 2019年『椿の花咲く頃』
●演技ドルの台頭
SM ENTERTAINMENT、JYP ENTERTAINMENT、FNC ENTERTAINMENTなど大手事務所所属のアーティストたちをはじめ、多くのアイドルが俳優業に進出(作品はこの時期の主なもの)。
- ド・ギョンス(EXO-D.O.)『100日の郎君様』
- キム・ミョンス(INFINITEエル)『仮面の王 イ・ソン』
- ジュノ(2PM)『キム課長とソ理事〜Bravo! Your Life〜』
- テギョン(2PM)『君を守りたい〜SAVE ME〜』
- チャウヌ(ASTRO)『私のIDはカンナム美人』
- チャニ(SF9)『SKYキャッスル』
- ロウン(SF9)『偶然見つけたハル』
- IU『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』
●ヒット作が生んだ人気スター
- イ・ジョンソク 『君の声が聞こえる』
- チュウォン 『グッド・ドクター』
- キム・スヒョン 『星から来たあなた』
- ソン・ジュンギ 『太陽の末裔〜Love Under the Sun〜』
- パク・ボゴム 『雲が描いた月明り』
- コン・ユ 『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』
- チョン・ヘイン 『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』
- パク・ソジュン 『キム秘書はいったい、なぜ?』